名古屋市鶴舞線いりなか駅近くの女性医師による精神科・心療内科|りさ杁中こころのクリニック

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2021/12/22 : 待合の本のご紹介 「自分でできる対人関係療法」

今回は、水島広子先生が執筆された、対人関係療法のセルフヘルプ本、「自分でできる対人関係療法」をご紹介します。水島先生は対人関係療法に関する書籍を数多く書かれていますが、(私が知る限りでは)水島先生が書かれたセルフヘルプ本の中で一番初めに発行された本です。


対人関係療法自体は当初は「うつ病」の治療を目的に作られ、その後さまざまな疾患に適用された精神療法ではありますが、この本は疾患の有無や種類には焦点をあてず、番人向けに書かれています


そのためすでに病院にかかっていて診断がついている方は、疾患別の本(対人関係療法でなおす○○シリーズ)も出ているため、そちらの方が合っているかもしれません。


「対人関係療法」というと、「対人関係に問題がある人が取り組むのかな?」と思われるかもしれませんが、対人関係療法は「対人関係に問題がある」と感じている人だけに向いている治療ではございません。一見、対人関係に問題はなくても、実はストレスを感じやすい対人関係を作っていることは多いものです。「生活上のストレスを和らげる」「生きやすくする」「対人関係を楽にする」ぐらいの目的で思っていただければよいような気がします。


個人的に、特にこの本をお勧めしたいのは

1) ストレスを感じ始めてからの期間が短い(急性の)方

2) 大切な人を亡くした方(対人関係療法でいう「悲哀」)

3) 近しい家族とうまくいっていない方(対人関係療法でいう「不和」)

です。


どうしてかというと、「見立ての作りやすさ」で考えています。セルフヘルプ本では、自分で「見立て」(ケースフォーミュレーション)を作らないといけません。ただ、この「見立て」を作る作業はなかなか難しいもので、治療では対人関係療法の治療者と患者さんとで話し合いながら、治療者がまとめます。


1)ですが、ストレスを感じ始めてからの期間が短い方が圧倒的に見立ては作りやすいです。経過が長くなってしまうと、その分さまざまな対人関係の出来事が起き、「何がきっかけで症状が生じているのか」がみえにくくなってしまいます。


対人関係療法の見立ては、上記の「悲哀」「不和」「役割の変化」「対人関係の欠如」の4つから選びます。


このうち、2)の「悲哀」と3)の「不和」は、比較的見立てが作りやすく、取り組む内容も具体的でわかりやすいです。


特に、「悲哀」というのは、ほとんど全ての方が経験するライフイベントであるにも関わらず、「大事な人が亡くなったときに気持ちとどう向き合うとよいのか」というのはあまり知られていないため、皆さんにお勧めしたい内容ではあります。


「役割の変化」は、「自分に求められる役割が変化したとき」を機に症状が生じている場合に選びます。結婚や就職、昇格といった出来事のほか、「子供が巣立った」といったことなども含みます。「対人関係の欠如」は、対人関係がない(もしくは、深く感情をやりとりする対人関係がない)ことが症状に関連している場合に選びます。


「役割の変化」は、「どんな役割からどんな役割に変化したのか」を言語化するとよいのですが、その作業が1人でやるととても難しいような気がします。


例えば、「昇格」というライフイベントを機に症状が生じている患者さんがいたとします。単に「部下の役割」から「管理職としての役割」と言葉にするだけでなく、「何が変わったのか」を、患者さんがしっくりくる形で、もう少し具体的に治療の戦略に役立つように言語化する方が効果があり、例えば「仕事を正確にこなす部下の役割」から「自分でも仕事を受けつつ一部の仕事を部下に指示する役割」といった感じでしょうか。


そうして言葉にしてみると、何に取り組んでいったらよいかが少しずつ明確になってくることが多いものです。自分がピッタリだと思う感じで言葉にできればよいのですが、それは場合によっては1人でやるのは難しいかもしれません。


「対人関係の欠如」は、見立てを立てること自体は難しくないかもしれませんが、身近に対人関係がないという状況から、一から一人で本を読んで取り組んでいくというのはなかなか大変なことです。(できれば対人関係療法を知っている)カウンセラーや精神科医の力を借りながらでないと難しいような気がします。


とはいっても、この本の前半は(4つの見立てによらない)「万人に役立つ対人関係療法的な知識」が書かれており、誰が読んでも役に立つ本だと思います。水島先生が直接対人関係療法を実施できる患者さんは限られているため、できる限りたくさんの人に水島先生の治療のエッセンスを届けるために書かれたのだろうな・・・ということが伝わってきます。



りさ杁中こころのクリニック 院長
今井理紗

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