思春期のうつ病
思春期のうつ病と成人期のうつ病の違い
思春期のうつ病は成人期のうつ病とは異なる点がいくつかあり、日本うつ病学会が発行しているガイドラインでも章が分けられています。当院は16歳以上(学校でいうと高校生から)を対象としていますので、ここでは16歳から24歳までのうつ病についてご説明します。
抗うつ薬によって自殺念慮が強まる可能性
思春期のうつ病で最も気をつけなければいけないのは、抗うつ薬によって死にたい気持ちが増えるリスクが少しだけあるという点です(逆に25歳以上のうつ病では、抗うつ薬によって死にたい気持ちが減ることが示されています)。そのため、抗うつ薬の添付文書には「抗うつ剤の投与により、24歳以下の患者で、自殺念慮、自殺企図のリスクが増加するとの報告があるため、本剤の投与にあたっては、リスクとベネフィットを考慮すること。」と記載されています。
抗うつ薬が効きにくい
海外の研究では、思春期のうつ病に対しても抗うつ薬は効果があるとは示されていますが、その効果は成人よりも少ないと報告されています。また抗うつ薬の種類によって、効果があるものとないものがあると報告されており、成人の抗うつ薬の治療とはかなり異なります。
双極性障害が発症しやすい年代
思春期というのは、双極性障害を発症しやすい年代でもあります。双極性障害はうつ病とは治療法が異なるため、正確に診断する必要があります。
自傷や自殺未遂などが多い
成人のうつ病と比べて、自傷や自殺未遂といった行動を起こしやすいということがわかっています。
思春期うつ病の評価
成人期うつ病との症状の違い
児童(おおむね12歳以前)のうつ病では抑うつよりもイライラ感が強いと報告されています。では思春期のうつ病はどうかというと、年齢があがるにつれて児童のうつ病よりは成人に近付きますが、患者さんによってばらつきがあります。
言葉以外の評価方法
思春期の方はまだ成長途中であるため、うつ病のために生じている身体や気持ちの変化を言葉にできないことがあります。そのような場合、親御さんからの情報を参考にしたり、学校や家庭での様子を絵に描いてもらったりと、さまざまな工夫が必要となります。
思春期うつ病の治療
(限定的な)休養
思春期のうつ病でも、治療のために休養が必要です。ただ、成人と異なるのは、高校生ぐらいまでの学生さんでは、「限定的な」休養、つまり、学業に関しては無理のない範囲で続けてもらう(学校に通うことを強制しているわけではなく、塾や自宅学習でも可。良い成績を取るということではなく、ただ何かしら学習を続けるということです)、難しい場合は親御さんにサポートしてもらうという点が、最も異なる点です。なぜこのような違いがあるかというと、成人期で任される仕事や育児とは異なり、学業は「責任」を負わないからだと思われます。
精神療法(≒カウンセリング)
心理教育といって、うつ病の症状についてよく知り、対応できるようになるよう、症状についての情報をお伝えします。思春期のうつ病の場合は、患者さん本人だけでなく、必ずご家族にもお伝えしています。
また、認知行動療法や対人関係療法といった期間限定に集中的に行う精神療法は単独で抗うつ薬と同等の効果があります。
思春期の対人関係療法は、成人期の対人関係療法と比べて家族同席面接を増やして行われます。きっちりと行おうとすると、毎週、1回あたり30分から60分かけ、期間限定で行うものになります(保険診療のほか、別途予約料がかかります)。
薬物療法
思春期のうつ病の方への抗うつ薬治療は、先ほど記載した通り、死にたい気持ちが強まる可能性があります。思春期のうつ病に対して効果が確認されている薬であれば、薬を使うことによって効果が出る可能性は死にたい気持ちが強くなる可能性よりも大きく、メリットもあるため、必ずしも悪いものではないと判断して使用されている医療機関も多いと思います。メリットデメリットを考えた上で慎重に考える必要があります。思春期のうつ病ではプラセボ効果(薬そのものの効果というよりも、薬を飲むだけで得られる効果)も高いため、何かしらの薬を使うのは良いかもしれません。「安定剤」と呼ばれる薬に関しても、年齢の若い患者さんでは「脱抑制」と呼ばれる、一時的に抑制が外れてしまう副作用が生じやすいと言われているため、使用は慎重にしたほうが良いとされています。
当院における思春期うつ病の診療の工夫
家族同席面接と個人面接のバランス
成人期の患者さんの面談は、患者さんご本人とお話しする時間が中心ですが、思春期の患者さんの面談では必ず親御さんとお話しする時間も設けています。患者さんの話を補ってもらったり、症状に対する対応法をお伝えしたりします。ただ、思春期では、親御さんには話しにくい話題もあるものですので、全ての面談で親御さん同席というわけではなく、患者さんとの個人面談の時間も設けています。
描画なども併用した感情表出の促し
先ほど記載したように、思春期の患者さんは成人期の方と比べて言葉でうまく言えないことがあるため、言葉による表出だけに頼らず、絵で描いてもらったりすることで気持ちや困りごとを推測することもあります。
学校との連携
患者さんの希望がある場合のみですが、学校の先生とお話しすることもできます。
双極性障害の可能性を評価する
思春期のうつ病の患者さんに対しては、先に記載したように、抗うつ薬を使うリスクが高いため、積極的に薬を使わないことの方が多いのですが、一つ気をつけた方が良いのは双極性障害の鑑別です。診断が双極性障害の場合ですと、薬物療法が第一選択になり、積極的に薬を使った方が改善しやすいということになります。当院では、全ての患者さんに対して、過去に躁のような期間がなかったかお尋ねしていますが、思春期の患者さんには特に注意しています。
診療時間
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | |
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昼診 | ○ | ○ | × | × | ○ | ○ | × |
夕診 | ○ | ○ | × | × | ○ | ○ | × |
昼診 10:30-14:00 夕診 15:00-19:00